冲永賞 受賞者一覧
2019年
2020年
2021年
2022年
2023年
2024年
- 2019年
- 稲葉 毅(東都文京病院外科) 「鼠径ヘルニア術野における知覚神経の走行に関する検討」(原著論文) Vol.1 No.2
- 2020年
- 田崎 達也(JA広島総合病院外科)「前方到達法で修復した両側上腰ヘルニアの 2 例 ―手術適応と術式選択に関する考察 ―」(症例報告) 掲載号 Vol.5 No.2
- 受賞者コメント
- 腰ヘルニアに対して「早期手術を勧める文献が多いこと」「近年の報告の多くが腹腔鏡手術であること」の2点に関して疑問を感じ、問題提起する必要があると考えたことが、本論文を書いたきっかけです。腰ヘルニア門の近傍には複数の神経が存在するため、腹腔鏡手術を行った場合、メッシュ固定を行うことで神経損傷の危険がありますが、そのことに対する配慮がみられない論文が過去にみられました。
腹腔鏡手術、さらにはロボット手術と、新しい術式が脚光を浴びる中、従来行われてきた前方到達法の安全性、簡便性という利点を強調した論文に対して賞をいただけたことに驚きを感じると同時に、日本ヘルニア学会の素晴らしさを感じました。
今後も賞に恥じないよう、ヘルニアに対して真摯に向かい合っていきたいと思います。どうもありがとうございました。
- 2021年
- 諏訪 勝仁(東京慈恵会医科大学第三病院外科)「725修復から学ぶダイレクトクーゲル鼠径部ヘルニア修復術のknack and pitfalls-ダイレクトクーゲル鼠径部ヘルニア修復術 –」Vol.4 / No.2 【原著】
- 受賞者コメント
- ダイレクトクーゲルパッチは鼠径部切開法による腹膜前修復術を簡便で再現性の高い術式として具現化した.ダイレクトクーゲル法は“早くて,安くて,うまい”の私の“牛丼”理論を兼ね備えた理想的な手術であった.私は,この牛丼手術の真の実力を計るための三部作研究を行った.今回沖永賞をいただいたのはその第二章に当たるもので,第一章の私自身が携わった手術のケースシリーズに続く,一般消化器外科医が執刀した成績および慢性疼痛の危険因子を解析した.結果,本術式には一定のラーニングカーブがあること,術後早期疼痛のコントロールが重要であることが示され非常に有意義な研究であった.本研究はランダム化比較試験で幕を閉じたが,一つの術式をやり抜いた成果を実感した.ダイレクトクーゲル法は私の外科医人生において,すべての術式の評価軸である.
今回,このような名誉ある評価を受け誠に光栄です.皆様に御礼申し上げます.
- 2022年
- 朝蔭 直樹(札幌禎心会病院外科・消化器外科)「横筋筋膜・腹膜前腔・Retzius腔に関するパラダイムシフト」Vol.5 No.1
- 受賞者コメント
- 今回栄えある冲永賞を頂戴し大変光栄に存じます。これまでご指導いただきました諸先生方に感謝いたします。佐藤達夫先生と故高橋 孝先生に特別な謝意を表します。
筋膜とは膜ではない。命名過程を知れば一目瞭然と言えます。私は「膜の功罪」を明らかにしようと、これまで同じテーマで問い続けてきました。横筋筋膜と腹膜前腔、その間隙であるRetzius腔、これらが収まる腹膜外腔という概念の理解が大切です。もはや浅葉・深葉に意味はありません。今こそ発生学を踏まえた臨床と解剖のFusionが求められています。これからヘルニア学を追求していく方々が、共有するべき手技、コンセプトを表現するための道しるべになればと思います。私がパラダイムシフトした所以です。
- 2023年
- 成田 匡大(国立病院機構京都医療センター外科)「鼠径ヘルニア待期的手術の選択肢の一つとしてShouldice法は許容できるか?」2021:Vol7(2):28-39
- 受賞者コメント
- この度ははえある冲永賞に選出いただき、身に余る光栄に存じます。選考委員の先生がたをはじめ、関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。
受賞いただきました論文のタイトルは、「鼠径ヘルニア待期的手術の選択肢の一つとしてShouldice法は許容できるか?」であり、2019年5月から当院で開始したShouldice法導入後の実現可能性に関して検討したものです。
昨今は腹腔鏡手術全盛期であることから、若手の先生の中には、鼠径部切開法を見たこともやったこともない、という方がおられます。本論文では、たくさんの手術写真と、シャーカステンの光で複写したイラストをふんだんに盛り込んでおります。若い先生方が鼠径管解剖を理解する助けとなれば幸いです。また、本論文はShouldice病院でご指導いただきましたDr. Slaterにも校閲いただき、お墨付きをいただきました。機会があれば是非ご一読下さい。
最後になりますが、Shouldice病院の皆様、いつも一緒に仕事をしてくれている京都医療センター外科の皆様、そしてずっと僕を支えてくれている家族に感謝の意を表明いたします。ありがとうございました。
- 2024年
- 長谷部 行健(汐田綜合病院)「腹直筋形態の改善効果を認めた腹直筋前鞘flapを用いたヘルニア嚢温存Onlay 腹壁瘢痕ヘルニア修復術の手術手技と成績」2022:Vol8(1):3-12
- 受賞者コメント
- 「先人たちの偉業」
筋膜をヘルニア門の閉鎖に用いた修復術は、1920年にGibsonが報告した症例から始まり様々な方法が報告されています。ヘルニア門閉鎖に緊張がかからないようにするという事はどの術式にも共通した基本的なコンセプトになっています。本術式は、筋膜flapを用いて2列2層にヘルニア門を閉鎖する手術で、その大きな特徴は、副次的に腹直筋の形態異常が改善されることです。今回、症例数は少ないですが手術前後の腹直筋形態の比較検討で腹直筋形態異常が改善されたことが確認されました。腹壁機能の改善に寄与する変化と捉えています。本術式は、1973年のChaimoff、1996年の池田が報告した術式に筋膜flapの利用方法が類似しています。その時代に恐らく腹直筋形態異常の改善が認められた術式が施行された事になります。腹腔鏡下手術全盛の今、時代の流れに埋もれた術式に光を当てることができて大変光栄に思っています。
「パワーとレスポンスのバランスの時代へ」
腹壁瘢痕ヘルニア修復術は、単純に門を閉鎖する時代から腹壁機能(腹直筋形態異常の改善)を考慮した術式、つまり腹直筋形態異常を改善し、腹壁筋力、四肢の筋力を回復させる「パワー」の時代になりました。腹筋群には、四肢の動きに先んじて反応(レスポンス)すること、そして、腹横筋は他の腹筋群に先んじて反応(レスポンス)し始動するonsetの機能があることを1997年にHodgesが報告しています。腰痛ではこの反応が遅れるという報告もあり、腹壁瘢痕ヘルニア発生時や手術によってレスポンスにどのような影響があるのか、非常に興味のあるところです。遠い未来かもしれませんが、今後はパワーに加えレスポンス機能の低減を少なくした「パワーとレスポンスのバランスのとれた手術」が求められる時代が来るのではと思います。
そのような先見の明で本論文を沖永賞に選んでいただきました審査員の方々に敬意と感謝の気持ちを申し上げます。