こどもの鼠経ヘルニア(脱腸)の原因はお母さんのおなかの中にいたとき(胎児期)にあったおなかと足の付け根(鼠径管)を交通する通り道(腹膜鞘状突起)が残ったことがほとんどです。おなかの壁が弱くなって脱出してくるわけではないので、腹壁の補強はいりません。腹壁補強はかえってこどもには有害です。開いたままになっている通り道を根元で閉じる(脱腸の原因である開存した内鼠経輪の閉鎖)だけでこどもの鼠経ヘルニアは治ります。
通り道をふさぐ方法は大きく2つに分けられます。ひとつは足の付け根を切って、開いたままの通り道を引っ張り出して根元でしばる方法です(鼠径部切開法: Potts手術等)。もう一つはおへそから内視鏡をおなかに入れて腹腔内から開いているヘルニアの出口(ヘルニア門=開存した内鼠経輪)を観察して足の付け根から特殊な針を刺してヘルニアの出口を閉める方法です(腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術: LPECエルペック)。どちらの方法も全身麻酔下に行ないます。
足の付け根(鼠径部)を切って、鼠径管を開いてヘルニア嚢(自然閉鎖しなかった腹膜鞘状突起)の根元をしばって切断します。傷あとはLPECより大きいですが下着に隠れます。
腹腔鏡と把持鉗子をお腹の中に挿入して、開存しているヘルニア門(内鼠経輪:図3)を特殊な針を用いて巾着縫合して閉じます。傷あとは鼠径部切開法より小さいですが臍の近くになります(図4)。
どちらの方法でもこどもの脱腸を治す基本は一緒です。鼠径部切開法であるPotts法は70年近い歴史があり、LPECはまだ20年の歴史です。再発する率に差はなく1%未満です。入院期間は施設によって多少違いますが、どちらも日帰り手術も可能となる手術です。LPECでは反対側の鼠経ヘルニアを予防的に閉鎖できるというメリットがあり、術後に反対側にも鼠経ヘルニアが10%生じるとされていたものがほぼ0になっています。穴を閉じるだけの手術ですので合併症が起きることは大変少ないのですが、小さなこどもに対して行ないますので、この手術の専門家である小児外科医が行うべき手術です。小児外科医については、かかりつけ医や近所の小児科の先生に相談、あるいは日本小児外科学会のホームページをご覧ください ( http://www.jsps.gr.jp/general/specialist-list )。赤ちゃん、乳児の間に鼠経ヘルニアに気づくことが多いですが、幼稚園児にももう一つのピークがあります。まれには中・高校生になって発症することがありますが、これらも「こどものタイプ」の鼠経ヘルニアのことが多いのでぜひ小児外科に相談してください。