おなかの筋肉の膜が裂けてできた穴から皮膚の下に腸などの内臓が腹膜をかぶったまま飛び出します。体の表面から見ると鼠径(そけい)部や陰嚢がポッコリ膨らんで見えます。
飛び出した内臓がおなかの中に戻ると表面上は平らになり治ったように見えますが、飛び出した部分には腹膜の通り道ができてしまい自然に治ることはありません。
鼠径部ヘルニアは “脱腸”とも呼ばれ、下腹部の足の付け根あたりがポッコリ膨らむ病気です。この足の付け根あたりを鼠径部(そけいぶ)と呼びます。放置するとだんだん大きくなり男性の場合は陰嚢(いんのう)まで膨らむことがあります。
厚生労働省の統計によると日本全体で年間15万人程度の方が鼠径部(そけいぶ)ヘルニア手術を受けていると推測されます。2020年度(2020年4月~2021年3月)は新型コロナウィルス感染症が鼠径部ヘルニア手術にも影響し、手術を受けた人はやや減少しています。一般に鼠径部(そけいぶ)ヘルニアは子供と男性の病気と思われている方が多いのですが、日本における手術は約9割が15歳以上(厚生労働省のNDBオープンデータは5歳区切りで統計が出されています)に行われており、全体の1.5割程度は女性の方です。また、年齢や性別によって生じやすいヘルニアは異なっていますが、鼠径部(そけいぶ)ヘルニア全体でみると65~84歳の間に多くの方が手術を受けています(乳幼児を除く)。
おなかの筋肉の膜が裂けてできた穴から皮膚の下に腸などの内臓が腹膜をかぶったまま飛び出します。体の表面から見ると鼠径(そけい)部や陰嚢がポッコリ膨らんで見えます。
飛び出した内臓がおなかの中に戻ると表面上は平らになり治ったように見えますが、飛び出した部分には腹膜の通り道ができてしまい自然に治ることはありません。
鼠径部(そけいぶ)は生まれる前に睾丸や子宮を引っ張るすじが通過するため一度筋肉(筋膜)に孔が開いています。この穴の部分が生まれつききれいに閉じてないとヘルニアになります(生まれつきの原因によるもの=先天性)。また、筋肉が様々な原因で弱くなったり、おなかの圧力(=腹圧)が上がって筋肉がおなかを支えきれなくなるとヘルニアを起こします(生活習慣や加齢によるもの=後天性)。両方の原因が絡み合って起こる場合もあります。
おなかに力を入れる機会や立っていることが多い人(肉体労働者、声楽家、吹奏楽器の演奏、便秘症の人、前立腺肥大症の人、咳が多い人など)に多く、肥満、妊娠、なども誘因とされています。
鼠径部(そけいぶ)にできた膨らみが、大きくなったり小さくなったりするのが典型的な症状です。おなかに力を入れたときは飛び出し、力を抜いた時や手で押し戻すとわからなくなってしまいます。一日のうちでは立って活動を行った後の夕方は大きくなり、静かに横になっていた後や朝起きた時には膨らみが小さくわかりにくくなります。
かんとん(嵌頓)といって飛び出した内臓が戻らなくなり血の流れが悪くなると最悪の場合内臓がくさってしまう(壊死といいます)こともあり危険です。この場合はかなり強い痛みを伴い、おなか全体が痛くなったり吐いたりすることもあります。
このような危険な状況になる前に鼠径部(そけいぶ)ヘルニアかなと思ったら医師の診察を受けてください。
膨らむと同時に異和感や痛みがある場合は早めに医療機関を受診しましょう。
専門的には鼠径(そけい)ヘルニアと大腿ヘルニアを合わせて鼠径部(そけいぶ)ヘルニアといいます。どちらのヘルニアも体の表面からみると足の付け根あたり(鼠径部)あたりが膨らみ、専門医でも手術前に診察しただけでは正確にわからないこともあります。
さらに、鼠径ヘルニアは外鼠径(間接型)ヘルニアと内鼠径(直接型)ヘルニアの二つに大きく分類されます。また、外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアが複数存在する場合があり、これは併存型と分類されています。
医療界では15歳以下を小児としています。ここでいう成人とはこの小児に対する言葉であり、法律上の成年や成人とは意味が異なっていることをご承知おきください。この場合成人とは、16歳以上の人を指しており、小児に対する適切な日本語がないため成人という言葉が使用されていると思われます。
成人鼠径部(そけいぶ)ヘルニアには、女性に比べ男性に多く、外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアがあり、男女で頻度が異なっています。男性では外鼠径ヘルニアが最も多く次に多いのが内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアは稀です。一方女性では、外鼠径ヘルニアが多いのは男性と同様ですが、次いで多いのが大腿ヘルニアで、内鼠径ヘルニアは少数です。
鼠径部(そけいぶ)ヘルニアの診断や治療は“外科医”が担当します。外科医のいる病院や診療所を受診してください。
治療は飛び出した臓器をおなかの中へ戻し、その穴を塞ぐ必要があります。小児と異なり、ヘルニアが出てきていた穴(ヘルニア門)を、何らかの方法で人工的に塞がないと再発を起こしてしまいます。従来は筋肉を縫い合わせて治す方法が主流でしたが、再発が多く痛みも強いため現在では人工物(人体に使用しても安全な化学繊維)の網(メッシュ)を用いて修復する方法が主流となりました。
残念ながら現在の医学ではまだ手術で治す以外に方法がありません。脱腸帯という体の表面から圧迫するベルトがありますが、これは抑えているだけで治療にならないばかりか、状況によっては飛び出した内臓を傷つける場合もありお勧めできません。
過去30年で手術方法は大きく変わり、現在行われている手術法は以前に比べると再発や痛みが少なくなりました。手術の方法はいろいろあり、それぞれの手術に一長一短があります。手術を受ける前には担当の医師に詳しく話を聞きましょう。